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事故調査報告書

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1998年4月24日
事故調査委員会 龍野幸敏
件名:有明海への海上不時着水
有明海への海上不時着水
事故発生日時 1998年 1月31日 午前 9:10頃
事故発生場所 熊本県玉名郡岱明町 沖3-4km 有明海上
事故の程度 B-1 (機体全損)
負傷者 ナシ
機体 JA-A0674
体積 2190m3
クラス AX-7
飛行目的 有明海横断飛行(アドベンチャー飛行)
機長資格取得 1989年7月
総P1時間 438h46m

  1. 事実関係
    1. 1/31 05:00佐賀北ランチに同行5チーム集合 05:10気象情報を取り鹿島に向かう07:30頃立ち上げて他の気球のインフレを待ち,07:45インフレで使用したシリンダーを満タンのものと交換して離陸.目的地を玉名市とする.
    2. 搭乗クルーに,他のチームのチェイスクルーとしてきていたPu/tを搭乗させる.搭乗時にライフジャケットの着用をさせる.
    3. 離陸に当たっての点検で積載品(GPS・高度計・など)は行ったが,リップテストを行ったか記憶がない.
    4. 機長は,この機体について1シリンダーについて通常30分の燃費を認識して燃料4本(20kgシリンダー*4)を搭載した.
    5. 気象は3時の実況で,850hpa 285度 19ノット 700hpa 275度 41ノット 注意報ナシ.9時の予測は,850hpa 北西 20ノット 700hpa 西北西 40ノット 注意報ナシ 3000ftに層雲 4500ftから積層雲の情報.離陸時の地上風は弱い南風であった.
    6. 離陸は,5機中で最後に離陸した.離陸に際し,地上よりの写真撮影のためゆっくり上昇するようにした.
    7. 無線については,5機で共通周波数帯を決めて,連絡できるようにしていた.
    8. 通報については,離陸地を含め,玉名市・天水町を南限とする最高高度5000ftの通報と飛行の開始が福岡空港・長崎空港・熊本空港・海上保安庁に行われていた.
    9. 離陸後,3000ftまで高度を上げたが予定した風がなく,5000ftまで上・下して探すが,305゜前後の風であった.3000ft位から雲がかかる.
    10. 3本目のシリンダーに切り替えたとき,対岸までの距離を考えて陸地への到達に疑念を持ち,着水の可能性を考える.(東経130度20分,北緯32度58分あたりで)
    11. 08:50 残燃料1.5本と他の気球に連絡.
    12. 連絡して約10分後,3本目のシリンダー残が15%で4本目を約半分消費したとき,気球は長州港沖1.5kmほどを海岸に平行又は離れるように海上近くを飛行していた.
    13. この時点での残燃料を推定10kg,陸地への着陸は不可能と考え,着水を決意し 09:10 着水を他の気球に連絡する.
    14. この後着水(約5分後).着水して,立ち上げて曳航してもらうか気球を船に上げて回収できるようにしてみたが風が強く断念.この間,2回の離・着水を繰り返した.
    15. 最終の着水時間は不明であるが,最初の着水地点より南へ約2km離れていた.この時点まで,チェイスクルーには連絡が取れていなかった.
    16. 救助は,地元の海苔網漁船で,着水前に漁船とコンタクトをして近づいたのを確認して着水,乗員救助の後,他の船にて気球を回収.
    17. 回収のため球皮を数カ所破断,搭載品は水没.10:50全ての回収が終了.
    18. 他の4機の気球は,無事着陸.通報区域外に着陸した気球は3機.エリア逸脱前に空港に通報.
    19. 機長は,過去に次のようなアドベンチャー飛行を経験している.
      有明海横断(2度)・琵琶湖横断・北アルプス越え
    20. 該当する気球は,初登録1992年9月 登録期限1998年11月
      自由飛行時間225h24m 回数171回(雨天フライトなし.係留6回 7h55mを含む)
      材質:ナイロン(上部3パネはハイパー)
    21. 搭載品として,高度計・昇降計・GPS・カーナビゲーション・アマチュア無線機・携帯電話などを乗せていた.
    22. 当日の入手した気象は,3時の高層実況(850.700hpa)と9時の予測及び概況を気象台に05:10頃TELして情報を得た.  
  2. 情勢調査分析
    1. 事故は,アドベンチャーフライトを行うために入手した風に乗ることが出来なかった為と,燃料不足によって起こった事故である.
    2. 当日のフライトプランとして,鹿島→玉名までを予定,気象データは,福岡の当日3時の実況高層データ(850hpa/700hpa)及び9時の予測と概況を入手して検討をし,850hpa(約4500ft-5000ft)の285度19ノットと北西20ノットの予測850hpaの風を利用して有明海横断をする事としてプランを決めフライトを行ったものであるが,実際の風は305度の風で,地上及び海上付近はより北成分が強く感じられた風向であった.
    3. 各機の航跡を見ると,ほぼ同じラインをフライトしているようであるが,1機が通報エリア内に着陸した他は,事故機を除いてエリア逸脱をしている.これは,風速などが高度の取り方により時間的なずれがでたためではないかと思われるが,各機のレポートによると岱明町の岸にほぼ1:20位で到達している.
    4. 4500ftで雲の情報があり,フライトの状況から雲中フライトを行なってはいる.他の気球の確認はでき,他機からの風向風速の情報が有効に利用できた為であると思われる.事故機は,最後尾に付けており,多少送れていたものと思われる.
    5. 集団アドベンチャーフライトでの一般的な当日の気象の取り方としては別段少なすぎると云うことはなく,普通ではあるが,5機参加の内3機までがエリア逸脱し,且つ,着水の可能性が考えられた今回のフライトについては,そのプラン設定,フライトを決断するための気象の把握に何らかの問題が内在するのではないか?
      又は,他の情報入手の対策手段があったのではないか?と考えられる.数値予測データによれば,有明海中央部付近での06:00 311度10.8m/s 09:00 312度 10.5m/sが出されていた.他に,前日からの1/31 09:00予想気圧配置図によると,東シナ海からの高気圧の張り出しが北西部九州を覆い始め,等圧線としては有明海海上で北成分の風の可能性を見せていた.
    6. 特殊なフライトとしての認識は充分であったか?.
      予定地での気象の測定や支援チェイスクルー・支援船などは無く,特殊なフライトを想定しての準備としては保安庁への連絡以外,通常エリアと同様のフライトの準備に終始していた.
    7. 約2時間分の燃料搭載をパイロットは設定している.離陸地から目的地である玉名市までは直線で48km,利用する風の速度が19ノット/sであれば,計算上の直線所用時間・5000ftまでの高度上昇や地上までの降下・着陸地の選定などの経過時間などを考慮しての燃料消費量・予備の燃料分を含めての燃料に関するプランの設定が充分に余裕ある搭載量であったとは判断出来ず, 燃料に関する計算に配慮が足りなかったことは否めない.他の4機は少なくとも5本分以上の燃料搭載を行っていた.このフライトに参加した気球の最小飛行時間は2:00,最大飛行時間は,2:59であった.
    8. 77の機体に搭乗者2名と積載重量を軽くしてのフライトは良かったと思えるが,この一項だけで,燃料プランが特に軽減されるとは思えない.
    9. この機体の機密度は,天頂開口部横(材質;ハイパー)では340秒を上回る測定値であるが,天頂部より下に4パネル目(材質;ナイロン)は測定値0秒であった.又,4パネル目の引っ張り強度は18kgにて破断した.(このデータは,事故の10日後に海水に濡れた状態での計測値である.)
    10. この機体は,フライトレポートの記入・管理はされておらず,機体管理の記載は機体ログのみであり,他に燃費を類推出来る資料はない.気球の燃費は,気象条件,飛び方などで大きく変化するため把握することが難しく,常日頃からの機体ログ,フライトレポートなどへの記入である程度の掴むことが出来る.
    11. 離陸点検時でのリップテストの記憶がなく,この事故の一因としての要素を含んでいる.リップが付いたままでのフライトでは,飛行中にパラシュートと機体にずれがでて熱気の排出が生じる危険性があることは一般に指摘されていることである.
    12. このフライト自体は,パイロットの判断によるものであるが,この有明海横断フライトについては,数年前より繰り返し行われているもので,参加パイロット自身がフライトの決断をするのではなく,経験者の判断やその他の全体の流れの中でフライトを行ってしまうという風潮があったのではないかとの推測を禁じ得ない.
    13. 海上横断フライトや山岳地形のフライトにおいては,いったんフライトを開始してしまえば,中途でのフライトの中止は出来ない可能性の場合が多く,状況の判断は通常フライトが行われている一般的なフライトエリアとは大きく異なっている.
    14. 海上フライトをするに当たり,海上保安庁に通報して対応を行っていた.
    15. パイロットの着水の決断と漁船が救助に来てくれるのを確認しての着水判断は良かった.
    16. 回収に当たり球皮の破断はやむを得ない判断であった.
    17. 漁船員の方々の素早い対応にに感謝したい.  
    18. フライト逸脱に際し,通報を行えたのは良かった.
    19. この機体は,動産総合保険に加入しており,機体の損害に対して保険の適用を受けている.
  3. 調査結果
    1. パイロットは適正なライセンスを所持し,経験もあった.
    2. 機体は適当な第三者賠償保険と機体保険に加入していた.
    3. 計画の有効な通報書は提出されて,運用の通知もされていた.
    4. 海上を飛行するための飛行器材は装備されていた.
    5. 燃料搭載量に関して,パイロットが搭載した燃料は,目的地まで予測の気象が使用できた上での必要な量に当たるもので,余裕を持っての搭載量とは認められない.フライトプラン策定の課程で,もっと安全に配慮した計算が必要である.
    6. リップテストについての疑義は,この事故の一因をなす可能性はあるが,このことだけが主因とは論じられない.
    7. この機体は,相応の消耗を示しており,機体の保守管理については積極的に取り組み,使用気球の性能の把握などには特に注意を払うべき管理義務がパイロットには課せられていると思うが,現在の連盟のスタンスからこの点について積極的なアドバイスが示されていないのは残念である.この機体での海上フライトが不適当との要素は見いだせなかった.
    8. 海上フライトとの認識と準備に対策を講じる要素はあるが,このことは事故の直接の原因とは言えない.
    9. フライトの決行については,入手したデータでのフライト判断が不適当とは言えないが,予定高度内での積層雲の発生は注意を要するものである.又,気圧配置図なども活用されるべきである.
    10. 通常エリアでの飛行と非通常エリアでのフライトの長短を再度点検しての慎重なるフライトを望みたい.
  4. 安全に関する提案
    1. 機体の保守管理の方法について
      燃費に関しての機体管理の方法などの研究・啓蒙を!
      各自のリスクにより保守管理は行われるものではあるが,現行の機体管理に関する注意をもっと積極的に提案すべきである.
    2. フライトプランの作成に関して
      気象の入手法や利用法についての調査・研究を!
    3. フライトの判断について
      リスクを想定しての対策の啓蒙


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